大阪地方裁判所 平成4年(ワ)6688号 判決 1995年3月22日
原告
片山智
ほか二名
被告
岩元幹男
ほか二名
主文
一 被告岩元幹男、同宮本軍二は、原告片山智に対し、連帯して金八〇二万九五五〇円及び内金七二七万九五五〇円に対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告岩元幹男、同宮本軍二は、原告片山嚴に対し、連帯して金一万〇二六四円及び内金九二六四円に対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告岩元幹男、同宮本軍二は、原告片山喜久子に対し、連帯して金四万三八二〇円及び内金三万八八二〇円に対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告安田火災海上保険株式会社は、原告片山智に対し、金三七九万六〇〇〇円及びこれに対する平成四年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用中、原告らと被告岩元幹男、同宮本軍二との間に生じたものは、これを八分し、その一を被告両名の、その余を原告らの負担とし、原告片山智と被告安田火災海上保険株式会社との間に生じたものは、これを二〇分し、その一を原告片山智の負担とし、その余を被告安田火災海上保険株式会社の負担とする。
七 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告岩元幹男、同宮本軍二は、原告片山智に対し、連帯して金五三〇〇万円及び内金五〇〇〇万円に対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告岩元幹男、同宮本軍二は、原告片山嚴に対し、連帯して金二五〇万円及び内金二三〇万円に対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告岩元幹男、同宮本軍二は、原告片山喜久子に対し、連帯して金二五〇万円及び内金二三〇万円に対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告安田火災海上保険株式会社は、原告片山智に対し、金四〇三万六〇〇〇円及びこれに対する平成四年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動二輪車を運転中、交通事故で傷害を負つた被害者が、加害車両の運転者に対し民法七〇九条により、運転者の使用者兼加害車両保有者に対し自賠法三条、民法七一五条により、損害賠償請求(一部請求)をするとともに、保有者が契約した自賠責保険会社に自賠法一六条により保険金の請求をし、さらに、被害者の両親が加害車両の運転者に対し民法七〇九条により、運転者の使用者兼加害車両保有者に対し自賠法三条、民法七一五条により、損害賠償請求した事案である。
一 争いのない事実
1 事故の発生
(1) 発生日時 平成二年九月一〇日午前一〇時五五分ころ
(2) 発生場所 京都府船井郡瑞穂町字八田小字大砂利二―五先路上(国道一七三号線、以下「本件事故現場」という。)
(3) 加害車両 被告岩元幹男(以下「被告岩元」という。)運転、被告宮本軍二(以下「被告宮本」という。)保有の普通貨物自動車(大阪一一は三一〇、以下「被告車」という。)
(4) 被害者 自動二輪車(一山口ゆ六〇八二、以下「原告車」という。)を所有し、運転していた原告片山智(以下「原告智」という。)
(5) 事故態様 本件事故現場で原告車と被告車が正面衝突したもの
2 原告智の受傷、冶療経過
(1) 原告智は、本件事故により、外傷性シヨツク、右大腿骨切断、右手関節開放性脱臼骨折、右環指中節骨骨折等の傷害を負つた。
(2) 原告智の右治療のための入通院状況は以下のとおりである。
<1> 水田整形外科病院
通院 平成二年九月一〇日(一日間)
<2> 京都第二赤十字病院
入院 平成二年九月一〇日―平成三年八月一〇日(三三五日間)
(3) 原告智の右傷害は、平成三年八月一〇日症状固定し、被害者請求の結果、右下肢を膝関節より上で欠損したものとして第四級五号、右股関節の用廃として第八級七号(以上で四級相当)、右手関節に著しい障害を残すものとして第一〇級一〇号、併合三級の後遺障害の認定を受けた。
3 責任原因
被告宮本は、被告車の保有者である。また、被告宮本は、被告岩元の使用者であり、その業務執行中に本件事故が発生した。
4 自賠責保険契約(甲一、一八)
被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告安田火災」という。)は被告宮本と被告車を被保険車両として自賠責保険契約を締結している。
5 原告らの身分関係
原告嚴、同喜久子は原告智の両親である。
6 損害の填補
原告智は、自賠責保険から後遺障害分として一五一八万四〇〇〇円、被告車の任意保険から治療費・装具費として二四九万四八七七円の合計一七六七万八八七七円の支払を受けた。
二 争点
1 被告岩元、同宮本の責任、過失相殺
(1) 原告ら
本件事故は、道路中央線付近で発生したものであり、被告岩元が本件事故回避の措置を全く行つておらず、同人には運転操作不適切の過失があるが、仮に、原告智運転の原告車が中央線を越えていたとしても、本件事故現場のようにカーブが連続してあるような地形を走行する場合には、カーブを曲がる際、対向車両が中央線付近を走行しがちであり、その付近での衝突の危険が容易に予想し得るところであるから、被告岩元においても、カーブ地点を走行する際には前方を注視して対向車両の動静に注意することは勿論のこと予め左寄りを通行して対向車両との接触の危険を回避すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然中央線付近を走行したものであるから、被告岩元に過失があり、その過失責任も軽いものではない。
(2) 被告岩元、同宮本
本件事故は、専ら、原告智が見通しの悪い左カーブの道路において、速度を出し過ぎたためカーブを曲がり切れずに中央線を越えて対向車線に飛び込んだことに起因するもので、被告岩元は自己の車線内を走行しており何ら過失はない。仮に何らかの過失があつても、原告智の過失が重大で相当な過失相殺がなされるべきである。
2 原告智の損害額
とくに、後遺障害による逸失利益について就労先の昇格分を考慮して算定することの可否
3 被告安田火災の保険金支払義務
(1) 原告智
原告智が平成四年二月三日に被告安田火災に被害者請求したところ、被告安田火災は自賠責保険の傷害分、後遺障害分のいずれについても二割減額をした。原告智の損害に照らし、全額が支払われるべきであるから、被告安田火災には、傷害分残額二四万円、後遺障害残額三七九万六〇〇〇円の合計四〇三万六〇〇〇円及びこれに対する請求の翌日である平成四年二月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
(2) 被告安田火災
二割減額したことは認めるが、その余は争う。
4 原告嚴、同喜久子の損害額
第三争点に対する判断
一 被告岩元の過失、同宮本の責任、過失相殺
1 証拠(甲一五、一六、二九、三〇、乙一、検甲一ないし一二)によれば、別紙図面のとおり(以下、地点の表示はこれによる。)、被告車のものと認められるダブルのスリツプ痕(左前輪によるものが一一・四メートルなど)が南行車線上に印象され、原告車のものと認められる擦過痕が中央線から南行車線に〇・九メートル東に入つたサ1点から北行車線西側のコンクリート法面まで印象されていること、南行車線のサ1点付近に原告車のカウリング等のプラスチツク片が落下し、<ニ>点に原告智の切断された肉片が落下していたこと、被告車の損傷が右側運転席下フエンダー擦過損、右運転席後梯子部凹損、右側サイドバンパー内向き凹損、右後荷台フツク・右側サイドバンパー肉片付着等であり、原告車の損傷がフロントカウル右側割損・脱落、右フロントフオーク折損、ハンドル右側折損、前輪破損・脱落等大破であつたこと、原告智の下肢が右大腿部から切断されたこと、原告車に追従していた田村一宏が被告車のキヤビンと荷台の継ぎ目付近に原告智の右足が衝突したのを目撃したことによれば、本件事故は、被告車の右側面と原告車の右側が◎×地点で衝突したものと認めることができる。
右のとおり、本件事故現場が南行車線上であつたことは、路面の痕跡、受傷部位等から明らかに認められ、これに反する証人田村の証言部分、原告智の供述部分は採用しない。
2 ところで、本件事故現場付近の道路状況、本件事故直前の原告車、被告車の走行状況について、前掲証拠に加え、証拠(甲二五の1、2、二六ないし二八、証人田村一宏、原告智本人、被告岩元本人)によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証人田村の証言部分、原告智の供述部分は採用しない。
(1) 本件事故現場付近は、原告車の進行方向から見て左カーブとなつている片側各一車線のアスフアルト舗装された平坦な道路で、幅員は北行車線が三・六メートル、南行車線が三・一メートルで、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止標示がされ、時速五〇キロメートルの速度規制がされている。
本件事故現場付近の南行車線の東側の太陽工業株式会社の敷地と南行車線との間に、段差のないアスフアルト舗装された幅員約八・一メートル、南北に七〇メートルにわたる通行可能な余地がある。
車幅は被告車が二・〇五メートル、原告車が〇・六八メートルである。本件事故当時、交通閑散で、被告車以外南進車両はなかつた。
(2) 原告智は、友人の田村一宏に先行して、北行車線を時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で北進し、本件事故現場のカーブ手前で減速し、本件事故現場付近手前で中央線を越えたため、被告車と衝突した。
(3) 被告岩元は、被告車を運転して、本件事故現場手前の南行車線中央線寄りを時速約六〇キロメートルで南進し、本件事故現場付近で前方七五メートルの北行車線中央線寄りを走行中の原告車を発見したが、そのまま約一五メートル進行して、三九・二メートル前方の中央線付近を走行してきた原告車に危険を感じ、急ブレーキをかけるとともに、ハンドルを左に切つたが、一七・五メートル進行して原告車と衝突した。
衝突後、被告岩元は、そのまま、本件事故現場から逃走した。
なお、被告岩元は、本件道路は何度も通行し、本件事故現場付近の道路状況は熟知していた。
以上の事実が認められる。
3 右事実によれば、速度違反のうえ、対向車線上に進出して本件事故を発生させた原告智に責任の大半が存することは明らかであるが、前記の被告車の右側面と原告車の右側が衝突したという本件事故態様によれば、被告車が道路中央寄りを走行していなければ、本件事故は回避可能というべきであり、本件道路状況下で原告車がカーブで中央線付近を走行し、南行車線に進出する可能性が十分認められ、道路左側に避譲する余地が存したにもかかわらず、漫然と南行車線の中央寄りを進行していた被告岩元にも、ハンドル、ブレーキを的確に操作して左寄りを走行するなどして前方の対向車との衝突を回避すべき注意義務を怠つた過失が認められることになる。
右の事故態様、本件道路状況等を総合勘案すると、八五パーセントの過失相殺をするのが相当である。
二 原告智の損害額(以下、各費目の括弧内は原告主張額)
1 治療費(一六〇万一九七〇円) 一六〇万一九七〇円
水田整形外科病院、京都第二赤十字病院の治療費として、一五八万〇八一〇円を要したことは当事者間に争いがなく、証拠(甲八ないし一四)及び弁論の全趣旨によれば、ガスエソ治療のため平成二年九月一九日から同月二七日まで京都大学医学部附属病院第二外科に通院を余儀無くされ、その治療費として二万一一六〇円を要したことが認められ、治療費は合計すると一六〇万一九七〇円となる。
2 入院雑費(四三万五五〇〇円) 四三万五五〇〇円
前記のとおり原告智の入院期間は平成二年九月一〇日から平成三年八月一〇日までの三三五日間であり、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、四三万五五〇〇円となる。
3 付添看護費(六一万二〇〇〇円) 六一万六五〇〇円
証拠(甲四)及び弁論の全趣旨によれば、原告智の入院にあたり、平成二年九月一〇日から平成三年一月二四日まで一三七日間付添看護を要し、原告智の親族が看護したことが認められ、一日あたりの付添費として四五〇〇円が相当であるから、付添看護費は六一万六五〇〇円となる。
4 休業損害(二八一万五三四二円) 二八一万五三四二円
証拠(甲四、六、七、三二ないし三五、原告智本人)によれば、原告智は、本件事故当時、二二歳(昭和四三年七月一八日生)の健康な男子で、宇部工業高等専門学校機械工学科(以下「宇部高専」という。)を平成元年三月に卒業後、同年四月から大阪の山崎製パン株式会社大阪第一工場(以下「山崎パン」という。)に就職し、工務課でパン製造機械の維持管理に従事していたこと、本件事故前三か月の給与所得は合計五四万七三八〇円であつたこと、本件事故のため休業を余儀無くされ、平成三年一二月二九日まで休業し、同日付で勤務先を退職し、その後無職となつたこと、右休業期間中の給与は七四万九九三一円支給されたのみであり、また、賞与は平成二年冬期分が六万〇一六五円、平成三年夏期分が二九万八九五六円、同年冬期分が二九万八九五六円の合計六五万八〇七七円減額されたことが認められる。
これに原告智の前記受傷程度、後遺障害の程度を総合すると、本件事故のため、原告智は平成三年一二月末まで四七八日間の休業は止むを得ないというべきであるから(なお、症状固定日は前記のとおり平成三年八月一〇日であるが、原告智の現実の休業、後記後遺障害による逸失利益の算定の便宜を考慮して症状固定後も休業損害として算定する。)、前記給与所得、賞与減額を基礎として休業損害を算定すると、二八一万五三四二円となる。
(計算式)547,380÷90×478=2,907,196
2,907,196-749,931+658,077=2,815,342
5 入通院慰謝料(六〇〇万円) 四〇〇万円
前記認定の本件事故による原告智の傷害の部位、程度、治療経過、症状固定までの入通院期間に加え、本件事故後、被告岩元は救護義務を尽くさず逃走したことを勘案すると、慰謝料として四〇〇万円が相当である。
6 後遺障害による逸失利益(一億五二三六万〇五七四円) 一億三六三六万二七五二円
(1) 原告智の後遺障害は自賠責保険で併合三級と認定されていること、同人が宇部高専を平成元年三月に卒業後、同年四月から山崎パンに就職して本件事故まで稼働していたことは前記のとおりであるところ、証拠(甲六、七、原告智本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告智の右下肢機能は全廃状態で、義足を着用し、片松葉杖でなければ歩行も困難であり、右手の機能についても可動域制限が著しく、筋力も低下し日常動作への障害は大きく、原告智は山崎パンでの就業に困難を来たし、前記のとおり退職し、その後無職の状態が続いているものであるが、前記後遺障害の程度に照らすと、就労可能な六七歳まで九二パーセントの労働能力を喪失したことが認められる。
(2) そこで、原告智が山崎パンでの勤務を継続していた場合の所得について検討する。
証拠(甲四八、四九、五二ないし五七(枝番号も含む。)、証人堀井隆一郎、原告智本人)及び弁論の全趣旨によれば、
<1> 山崎パンには、賃金規則、退職金規則等が整備され、標準給与表が毎年作成されている。平成六年分は別紙(5)のとおりである。
賃金は、本人給、資格給からなる基本給と、残業手当等の諸手当からなり、これに年二回賞与が支給されることになつている。
本人給は成績と関係なく年令によつて定められている固定給であり、資格給は、勤務評定により変動がある成績給である。
諸手当については、クリーニング手当は工務課で一律一〇〇〇円支給される固定給である。都市手当は事業所により等級に応じて支給される手当で大阪第一工場はA地区と扱われており、ちなみに三等級の平成六年標準給与表の年手当は一万二〇〇〇円である。資格役職手当は五等級昇格後から支給され、平成六年の標準給与表では五等級が五五〇〇円であり、昇格に応じて上昇する。残業手当は残業に応じて支給されるが、工務課の月平均残業時間は四〇時間弱である。準深夜手当は夜八時から一〇時までと朝五時から七時までの勤務に対し等級に関係なく一律一時間五〇円支給されるものであり、工務課は交代勤務で月四〇時間は確実に準深夜勤務がある。深夜手当は夜一〇時から朝五時までの勤務(内一時間は休憩時間であり、六時間勤務)に応じて支給されるものであり、工務課は月に二週は夜勤があるので六〇時間程度深夜勤務をすることになる。
<2> 賞与は、本人給、資格給にそれぞれ標準モデル表による乗率を乗じて、これに査定加給、資格役職、α加給(全社員に賞与を配分しても、会社全体の賞与の原資枠に残額がある場合に等級に応じてさらに配分するもの)を加算して支給されることになつている。平成六年の賞与については別紙(6)、(7)の標準モデル表に基づいて支給される。
<3> 原告智は、高専卒であるから、短大卒と同じ扱いを受け、採用時二等級で、二年後の平成三年四月には三等級、その後三年で四等級に順次昇格する予定であつた。
大卒者・高専卒者は、社員のうちに占める割合が少なく、幹部候補生として扱われるため、標準給与表のモデルケースより早いケースが多く、六等級までは極端に能力が落ちることがなければ職務評価のみで昇格し、七等級への昇格の際に試験があるが、大卒者・高専卒者はほぼ全員が合格し、昇格するのが過去の例であり、原告智は、入社翌年の昇格査定において大卒者・高専卒者が普通B査定であるところ、A査定と高い評価を受けていたことから、少なくとも、過去の例に準じて同様の昇格をする蓋然性が認められる。
以上の事実が認められる。
(3) 退職までの給与・賞与分の逸失利益
別紙(2)は、原告智が主張するベア上昇分を考慮しない平成四年一月から原告智が定年となる六〇才までの山崎パンでの得べかりし給与であるが、二四才時の年収は平成四年の、二五才時は平成五年の、それ以降は平成六年の標準給与表に基づき、これに原告智の今後の加令、前記のとおり見込まれる昇格を対応させて基本給を計上し、諸手当についても、残業手当については三五時間を前提にする(堀井証言)など確実に支給が見込まれるものを計上しているもので、右によれば、原告智は別紙(2)の給与所得をあげる蓋然性が高いものと認めることができる。また、別紙(3)、(4)の賞与の原告智主張額についても右と同様であるから、これを認めることができる。
なお、原告智はベアによる賃金上昇分も考慮されるべきであると主張するが、景気変動等で予測できないものであるから、これを考慮するのは相当でない。
そうすると、原告智の退職までの給与・賞与の現価は別紙(1)のとおり一億三四八一万九三七九円となるから、前記喪失率を乗じると、右の分の逸失利益の現価は一億二四〇三万三八二八円となる。
(4) 退職金差額(六二〇万二五六四円)
証拠(甲四八、五六の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、原告智は退職の際、退職金の支払を受けていないことが認められ、さらに、山崎パンの就業規則には退職金規定が設けられ、退職金は五七歳時の月額基本給に、基準支給率一五・六二五を乗じ、これに支給係数(定年であれば一・〇〇)を乗じて算出されるところ、前記によれば五七歳時の基本給は、少なくとも三七万六二六〇円となる蓋然性が高いから、退職金は五八七万九〇六二円となることが認められ、年五分の割合による中間利息を控除すると、退職金の現価は、二〇六万二三七四円となり、これに前記喪失率を乗じると、右の分の逸夫利益の現価は一八九万七三八四円となる。
(計算式)376,260×15.625×1.00=5,879,062
5,879,062×0.3508=2,062,374
2,062,374×0.92=1,897,384
(5) 退職後六七歳までの逸失利益(一四三一万〇三八二円)
原告智は、本件事故にあわなければ、定年退職後も就労する蓋然性が認められ、賃金センサス平成三年度産業計・企業規模計・男子労働者・高専・短大卒六〇ないし六四才の年間賃金が五一四万七〇〇〇円であり、同じく六五才以上の年間賃金が四六三万七七〇〇円であるから、その間のうべかりし給与は、別紙(1)のとおり一一三三万八六三一円となるので、これに前記喪失率を乗じると、右の分の逸失利益の現価は、一〇四三万一五四〇円となる。
(6) 以上によると、原告智の逸矢利益は、一億三六三六万二七五二円となる。
7 後遺障害慰謝料(一六〇〇万円) 一六〇〇万円
前記認定の原告智の後遺障害の程度に照らすと、一六〇〇万円が相当である。
8 将来の介護料(一八八三万八三八〇円) 〇円
原告智の後遺障害は前記のとおりであるところ、不自由ながらも日常の生活動作はひととおり可能であり(原告智本人)、格別介護の必要性を認めることはできない。
9 義足購入費(五八九万七一〇三円) 三三五万〇四五〇円
証拠(甲六、七、四六、原告智本人)及び弁論の全趣旨によると、原告智の右大腿の断端は非常に短く、通常の吸着式の義足は装着ができず、腰に補助ベルトをつけた吸着式の義足を必要とすること、その耐用年数は長くみても五年であり、原告智はその余命から一〇回交換を必要とすること、義足は当初九一万四〇六七円であつたが、二度目の義足からは型取り、練習を要しなくなるから五七万〇一八一円での入手が可能であることが認められ、症状固定が事故後ほぼ一年経過していたことを考慮のうえ、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して義足費用の現価を算定すると、三三五万〇四五〇円となる。
914,067+570,181×(0.769+0.645+0.556+0.488+0.435+0.392+0.357+0.328+0.303)=3,350,450
10 家屋改造費(一一七万一二〇〇円) 七六万七〇〇〇円
証拠(甲三七の1ないし3、三八の1、2、原告智本人)によれば、本件事故後、原告智の自宅トイレを和式から洋式に変え、手すりを設けたこと、風呂場のボイラーを風呂場内から操作できるものに変え、ガレージのシヤツターを変えたことが認められるが、原告智の後遺障害に照らし、必要な改造はトイレに限られるものであり、右費用である七六万七〇〇〇円が本件事故と相当因果関係のある損害ということになる。
11 医師への謝礼(一〇万円) 一〇万円
証拠(原告智本人)によれば、医師に謝礼として一〇万円を支払つたことが認められるが、前記原告智の受傷程度、入通院状況に照らすと社会通念上相当と認められ、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。
12 車両等の物損(七三万九五七〇円) 三四万円
証拠(甲二〇、三九、四一の1、2)によれば、原告車は平成元年初度登録の自動二輪車でレツドブツクによる価格が三四万円であることが認められ、その他のヘルメツト等の損傷の程度等も明らかでなく、原告ら提出の甲三九による七三万九五七〇円の損害は認めることはできず、物損は三四万円と認めるのが相当である。
13 小計
以上によれば、原告智の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は一億六六三八万九五一四円となり、前記のとおり過失相殺による八五パーセントの控除を行うと、二四九五万八四二七円となり、前記既払金一七六七万八八七七円を控除すると、七二七万九五五〇円となる。
14 弁護士費用(三〇〇万円) 七五万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は七五万円と認めるのが相当である。
15 合計
以上によると、原告智の被告らに請求できる損害額は、八〇二万九五五〇円となる。
三 被告安田火災の保険金支払義務
1 傷害分
前記認定によると、原告智の傷害分の損害は、治療費一六〇万一九七〇円、入院雑費四三万五五〇〇円、付添看護費六一万六五〇〇円、休業損害二八一万五三四二円、入通院慰謝料四〇〇万円、初回分の義足購入費九一万四〇六七円、医師への謝礼一〇万円の合計一〇四八万三三七九円から前記過失割合により控除した一五七万二五〇六円となるところ、前記傷害部分に対する既払金は二四九万四八七七円であり、すでに過払となつているから、傷害分の請求は理由がない。
2 後遺障害分
前記認定によると、原告智の後遺障害分の損害は、逸失利益一億三六三六万二七五二円、慰謝料一六〇〇万円、二回目以降の義足購入費二四三万六三八三円、家屋改造費七六万七〇〇〇円の合計一億五五五六万六一三五円から前記過失割合により控除した二三三三万四九二〇円となるところ、前記後遺障害分に対する既払金一五一八万四〇〇〇円を控除すると、残額は八一五万〇九二〇円となる。従つて、原告智請求の自賠責保険の支払枠の残額三七九万六〇〇〇円の請求は認められることになる。
四 原告嚴、同喜久子の損害額
1 慰謝料(各二〇〇万円) 〇円
親として子の受傷、後遺障害の程度が重大で、死亡したときにも比肩しうる精神上の苦痛を受けたと認められる場合には親からの慰謝料請求が認められるべきであるところ、確かに前記原告智の受傷、後遺障害が両親である原告嚴、同喜久子に多大な精神的苦痛を与えたことは前記認定事実から容易に推認できるものではあるが、未だ死亡したときにも比肩しうる程度とは認められず、慰謝料請求は理由がない。
2 交通費、宿泊費(各三〇万円) 原告喜久子分 二五万八八〇〇円
原告嚴分 六万一七六〇円
証拠(甲四五の1、2、原告智本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告喜久子は自宅のある山口県宇部市から原告智の入院先である京都第二赤十字病院へ来て、前記期間付添看護をしたが、その間も自宅の用事、本件事故の事後処理等で少なくとも一〇往復を余儀無くされ、宇部・京都間の鉄道料金は片道一万二九四〇円であつたことが認められる。右によると、原告喜久子の損害は二五万八八〇〇円と認めるのが相当である。
また、前記証拠によれば、原告嚴も何度か自宅と京都を往復したことが認められるが、原告喜久子が付添看護等をしていたのであるから、原告嚴の往復は入院当初と退院時の二回を以て相当とすべきことになり、うち一回はホテルに宿泊し、一万円を要したから、原告嚴の損害は、六万一七六〇円となる。
3 小計
以上によれば、原告喜久子の本件事故による損害は二五万八八〇〇円になるところ、前記過失相殺による控除を行うと三万八八二〇円となり、原告嚴の本件事故による損害は六万一七六〇円になるところ、前記過失相殺による控除を行うと九二六四円となる。
4 弁護士費用(各二〇万円) 原告喜久子分 五〇〇〇円
原告嚴分 一〇〇〇円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は原告喜久子が五〇〇〇円、原告嚴が一〇〇〇円と認めるのが相当である。
5 合計
以上によると、原告喜久子の被告らに請求できる損害額は、四万三八二〇円となり、原告喜久子の被告らに請求できる損害額は、一万〇二六四円となる。
五 まとめ
以上によると、
(1) 原告らの被告らに対する本訴請求は、被告岩元、同宮本各自に対し、<1>原告智が金八〇二万九五五〇円及び内金七二七万九五五〇円に対する不法行為の日である平成二年九月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、<2>原告喜久子が四万三八二〇円及び内金三万八八二〇円に対する不法行為の日である平成二年九月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、<3>原告嚴が金一万〇二六四円及び内金九二六四円に対ずる不法行為の日である平成二年九月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、
(2) 原告智の被告安田火災に対する本訴請求は、金三七九万六〇〇〇円及びこれに対する請求の日の翌日である平成四年二月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、
いずれも理由がある。
(裁判官 髙野裕)
別紙 <省略>
別紙 (1)
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別紙 (2)
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別紙 (3)
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別紙 (4)
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別紙 (5) 平成6年度 標準給与表
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別紙 (6) 平成6年 夏季賞与 標準モデル表(A地区)
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別紙 (7) 平成6年 冬季賞与 標準モデル表(A地区)
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